2020年2月29日土曜日

平成ぽよ I love you. 見てきました

今日も公演あるので、ネタバレご注意。
ストーリー・テーマ。宇宙の深淵、真理、知識への愛。
科学の側面から見た人間性とは別の世界。

それとは対照的「?」な、親子の感情、愛情、鬱屈したコンプレックス。
2つを絡ませながら進めていく意欲的な作品。

一般には無縁な科学技術的ギミックをてんこ盛りで入れていたのは、毎度の
山田さんのこだわりだと思う。
VR、巨大中国企業、株価、生体リンク、AI、人為生殖。
プロットとして謎解きゲームをつかって観客を引っ張っていく設定。
役者も4年生による経験者の力で、面倒な技術用語交えて芝居として成立させていた。
また、ホールでないスペースで照明機材も貧弱な中で、舞台転換中心に
演劇的なテクニックを使って切れ目ない70分を構成していた。
ミニマルな音楽による演出も観客の心理を下支えしており好感。


さて、以下一観客としての感想。
自分も製作者として「そんならお前やれるんけ?」という事ははあるのだが、
今は棚上げして、以下コメントする。


1.メインテーマの追求
物語のベースとなる物は、宇宙的な真理への渇望、根源への願望という物だった。(と思う)
それは娘を顧みないニナの野望や行動原理でもあり、ニナを間にしたキララと
ターチの行動原理でもあった。これはラストでどんでん返しを構成するために
不可避な要素であり、また感情的なメインテーマである親子のLoveと
ヲウリの娘としてのコンプレックスのベースとなる物だから、一番表現
するべきテーマだった。しかし芝居の前半で演劇的にうまく表現できておらず、
物語全体をひっぱる牽引力が弱かった。

2.キャラクタ分離
構想から脚本へ落とし込む際、ストーリーとテーマを語る事からキャラクタを
創造して行っていると推定するが、作品中で個々のキャラクタの意思と原理が
実際の行動とずれている感がある部分が要所に見られた。

例えばアルクの日常人的行動性とヲウリの突出した知的能力。
アルクとヲウリが一緒に行動する際に、言動の混在が感じられた。
行動を共にする場合は、キャラクタとして分離・対比させた方が
よりキャラクタが引き立ち、行動原理が明らかになると思われる。
(吉田秋生の夜叉に表されているような天才と市井の人間との対比相克)

3.セリフ回し
ストーリー展開時に行動や感情とだぶるセリフ、紋切型のセリフが多く、
役者の「演技」の自由度が削がれている箇所が多かった。
もっと役者の演技の力を信頼してセリフを削るべきだったと思われる。
しかし、これはプロジェクト内で、いかに演出方針と役者の解釈を
すり合わせる時間との勝負でもあるので、そこでのトレードオフは
難しい所ではある。
私のようなエンタメを望む観客としては、もっと具体的な演劇的な舞台寄りの
脚本を作ってもらうと、より楽しめると思う。
山田さん卒業なので、もう見る機会は無いかもしれないのが残念だが。

4.プロット
ラストの143を「観客に説明しない」ために、要所でしかけた暗号解読の前フリ。
おしゃれにラストをまとめるためには必要な方法論ではあるのだが、
膨大なギミックを短時間でまとめるという全体的な要請のためには、
もっと効率的に使いたい。
例えばメインテーマである、科学と宇宙と真理の壮大な世界に対する愛との
ベクトル合わせが、この日常的に見える前フリエピソードとできていれば
1.で説明しているメインテーマを下支えする事ができただろう。
脚本的にはできていたのかもしれないが、あまり演技として伝わって来なかった
気がするのは残念。これは演出面で役者と演出とのすり合わせ不足だったと推測。



最後に

プロジェクトとして、非常に難しい挑戦だったと思う。
脚本上、一般的ではない素材を扱うために、説明とストーリー展開を含めて
70分に収めるという非常に難しい事を目指した作品と思う。

今回題材や大量に投入されたギミックを脚本書き及び、舞台制作の中で
役者や関係者が消化しきれないままに時間切れになってしまったのでは
ないかと推測する。
主役の交代も練習や時間が無い中での大きなロスだったのではないか。
という所で、演劇的な感情、感動という点では残念ながらあまり評価はできない。

しかし、わかってながら挑戦する、というのは学生なればこそ、だし、
仲間同士の絆がある学生のサークルだからこそできる事だったのかもしれない。

4年間の集大成という事で、その時点で困難とわかっていても挑戦し、
またコロナウィルスの対応という逆風の中で、よくぞ完成したものだ。

卒業公演プロジェクトとして評価に値すると思う。

皆さん、お疲れさまでした。